前回の記事で、滞在して一つ屋根の下に暮らすことになったフランス人とアゼルバイジャン人がいましたが、そのうちのフランス人からヨーロッパの最高峰のクラブ「ベルクハイン」に誘われて、二人仲良く門前払いされた時のことを書きたいと思います。
「おい!カトー!ベルクハインに行くぞ!」
彼は僕より一回り年下なのにいつもこんな感じです。
「俺がベルリンの真髄を教えてやろう」といった態度です。なんというか、それまで周りから聞かされていたフランス人のイメージとは違ってとても気さくでした。
この写真の彼と行きました。
ヨーロッパ最高峰のクラブ「ベルクハイン」とは
「ベルクハイン」は世界のテクノ音楽の殿堂と言われるクラブです。クラブとはDJが音楽を流して踊ったりするところです。「ベルクハイン」はもともと発電所だった場所を改造して作られたクラブです。東ベルリンにあります。クラブカルチャーのメッカということで設立には歴史的にゲイカルチャーとも密接な関わりがあるそうです。
ベルクハインの場所
テクノ音楽とは?
下の動画のように「ドン・ドン・ドン・ドン」という4つ打ちのビートにシンセ音が重なるのが延々と続く音楽です。このビートがなり続ける限り、お客さんは踊り続けることが出来ます。
ちなみに日本だと電子音楽ならEDMでもトランスでもなんでもかんでもテクノと言われたりしますが、ヨーロッパに来てその呼び方が変わるかと思いきや、意外にもヨーロッパでも電子音楽を総称して「テクノ」という人が結構いました。別に大まかに判ればなんでも大丈夫だと思います。テクノがなければ今の数々の電子音楽も生まれてないかもしれないし。
テクノとはこういう曲ですね
ドイツ生まれの大御所テクノポップユニット「クラフトワーク」
ジャンルにうるさい人からすると「これはテクノじゃなくてテクノポップだろ!」と言われるかと思いますが、面白いから良いのです。ちなみに僕がこの「Pocket Calculator」という曲がなぜ好きかと言うと、日本向けに「Dentaku」としてリメイクされているからです。ぜひ見てみてください。おじさん4人が2番で日本語で歌い出すの様はちょっと可愛いですよ。
ということはテクノポップだからクラフトワークがいなかったらPerfumeも生まれなかったかも。
ダフトパンク「ジョルジオ・モロダー」
あとこのダフトパンクの曲でジョルジオ・モロダーという電子音楽黎明期の作曲家本人が出てくる曲があるのですが、その本人が過去のエピソードを自らの声で独白するというこの曲はなんというか、「アツい」ですよね。人生が刻み込まれているような曲です。というかこれ書きながら曲を聞いてて展開がアツすぎて泣きそうになってきました。この一曲にジョルジオ・モロダーさんの人生が凝縮されていると思います。だからこんな曲を作るフランス人は21世紀になっても文化の最先端なんだと思います。やっぱり今もそうなんですよね。
話逸れましたね。でも感動した時には同意が欲しくなるんです。
ベルグハインに向かう
夜のベルリン
フランス人の彼と二人でベルグハインまで向かいました。彼はなぜかやたらと自分の髪型を気にしていました。見た目ピシっと決まってないといけないようです。ドレスコードというか、そういう何かがあるようで、彼は少し緊張していました。ちょっとした面接前みたいな様子でした。どうやら入り口で「選抜」が行われるようです。
客として向かうのに「選抜」とは恐ろしい響きです。一体どういう基準で客を選抜するのでしょうか?態度?容姿?服装?オーラ?カネ?
自分が審判を受けるのかと思い、なんとも重苦しい気持ちで会場に向かいました。
客の選別が始まる
高まる緊張の中現地に到着すると、ベルクハインの前にはすでに長蛇の列が!どうやらイベントのある夜は毎回このように長蛇の列のようです。さすがテクノの殿堂。キャパシティ1500でものすごい列なので、10000人ぐらい並んでいるのかもしれません。このベルクハインというハコもすごいが、このベルリン市民のテクノ熱もすごいですね。
並ぶこと30分、だんだんと入り口に近づいて来ました。スタッフと思わしき中年男性が先頭の客を選別しているのが見えました。パっと見た感じ7割以上が弾かれているように見えます。そしてパっと見た感じ判断基準がまるでわかりません。イケてそうに見えるグループも容赦なく弾かれてしまいました。観光客っぽいグループも弾かれてしまいました。地元民っぽい若者グループも弾かれてしまいました。そして僕たち二人の番が回ってきました。結果は「却下」でした。一緒に行ったフランス人の彼は悔しそうな顔を浮かべて居ました。しかし僕はそれで落ち込むことはありませんでした。むしろその後ある光景を見て感動したのです。
テクノ「ガチ勢」しか入れない空気、そして文化に対する圧倒的なリスペクト
僕たちが却下された直後、なぜか列の逆方向から羊のような髪型をしたグループが登場しました。モーツアルトを現代っぽくしたような髪型の一団でした。服装も独特でした。態度も独特でした。すると彼らは顔パスで入って行きました。僕はそれを見て感動しました。
「なるほど。選別基準はそれか!」
そうです。「本当に文化に愛しているか」「文化に対してリスペクトがあるかどうか」を見られているのです。つまり金や外見や浮ついた態度などではなく「テクノという文化に対する真摯な態度」それが求められているのだと感じました。
「なんか良いなあそれ。」
落ち込むフランス人の彼を尻目に、僕は「なんかそれって良いなあ」と思って感動していました。
ここ最近日本にいると、何でもかんでもお金が優先されるような文化がはびこっているような気がしていたからです。特に音楽となるとここ10年は世界的に衰退業界とも言われ、何かと経済的な話と結び付けられて語られるのを耳にことが多かったのです。「良いものでも金にならないとダメだよ。」というような。もちろんテクノを聞く人が多いからベルリンのクラブシーンが経済的に成り立っているのは当然なのだと思うのですが、それと同時にベルクハインからは文化に対する並々ならぬリスペクトを感じてしまいました。安々とカネに迎合しない姿勢というか。運営するスタッフの人達が、本当にテクノ文化の維持発展を最重要項目に置いて運営されている気がします。
そんな強烈なイズムを感じました。
なので、僕たちが門前払いされるのも当たり前なのです。
リスペクトが圧倒的に足りないから。それが僕たちの身体からにじみ出ていたから。
その後、他の人から、何回か入れなかったけど別の日に行ったら入れたという話も聞いたこともありました。偶然なのか、何が理由なのかはっきりした基準は結局分かりません。
だけどベルクハインで「文化に対する圧倒的なリスペクト」それだけは十二分に感じ取ることが出来た。それだけは記しておきたいと思います。
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